染めのこと 大野純子

 

色を聞くー

 

着物を織り始めたのとほぼ時を同じくして、草木染を始めてから20年余りになりました。 その色の美しさ、密やかさ、やさしさ、深さに夢中になり、手当たり次第染めた日々。

 

まだ若くて体力もあり、不遜でもあったので、技術は全く未熟なのに、「こんな色で、こんな柄行の、こんな着物が織りたい。」と思って、目的に合いそうな染料を探しては、来る日も来る日も染めていました。

 

ところが、思い通りにいかないのが草木染であることに気付くのにさほどの時間はかからなかったように思います。一方で、自分の思い描いていた色味と違う色がどれもこれも美しく、草木染には失敗もない事に気付きもしました。

 

色は染めるのではなく、向こうからやって来るようです。 いつしか、目的に合わせて染めるのではなくて、染め色から導かれるものに静かに耳を澄ませ、作品を作るようになりました。    

 


 

    2015年       2016年    2017年    2018年   2019年 
1月    椨の木  梅  柊南天  八手                          
2月    枇杷  椿  蕗  満作  
3月    黒文字  紅葉苺  虎杖  赤樫  
4月    赤芽槲             小手鞠  花梨  ローズマリー      
5月    山法師  小米空木          紫式部  ミズキ  
6月 木附子他        桑  楊梅  針桐  
7月  合歓木  待宵草  薇  梔子  犬枇杷   
8月  桜  葛  珊瑚樹  木槿  松風草  
9月  小鮒草他   金木犀      白膠木  芒  蜜柑  
10月  臭木  冬青  栗  イタヤ楓            
11月  山櫨  車輪梅  粗樫  小楢    
12月  桜  南天  熱海桜  三椏    

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 9月の染料植物 

ミカン(蜜柑)

 

わが家のミカン、多分温州です。 ほんのり色づいてきました。 

 

定期的に剪定するので、それを利用して染にも使います。 あまりよくは染まりませんが、煮出しをしていても爽やかな香りがして楽しい染めです。

 

 

もちろん<実は食べられますが、熟した黄色い皮を乾燥して細かくしたものが生薬「陳皮」でして、使い道は多岐、重宝します。

とりわけ自宅で生ったものは無農薬ですので、無駄にすることなく使います。 陳皮を染めに使うこともできます。

 

 

ついでに摘果しました。

意外に実入りが良かったので、ミカンシロップを仕込みました。この時期のものは苦みも酸味もあって、とても美味しいシロップになります。

 

 


 

 8月の染料植物 

マツカゼソウ(松風草)

 

嫋やかで涼しげな風情のマツカゼソウは伊豆の至る所でよく見かけます。3回3出羽状複葉が互生、というとややこしいですが、美しく手入れされた松が交互に枝を差し出したような端正さ。名前の由来もどうやらそんなところから来たようです。

 

日本では唯一の草本のミカン科植物です。 

とてもミカンと同じ科の植物とは思えませんが、葉をちぎってみるとその理由が分かります。 生薬名を「臭節草」と言いミカン科特有の匂いがします。 この弱々し気な草からは想像できない強い匂いで臭いという人もいますが、私はいい匂いと感じます。

 

私は漢方薬としてよりも、乾燥した葉を箪笥の引き出しに入れておくと虫よけになると聞いていました。

 

鹿の食害が深刻な天城の林床、林縁にもたくさん生えて群落を作っていますが、どうやら鹿はこの臭いを嫌って食べないようです。 天城はそのうち鹿の食べないアセビやマツカゼソウ、トゲのあるメギやサンショウだけになってしまうのではないかと心配になります。

 


イヌビワの実
イヌビワの実

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 7月の染料植物 

イヌビワ(犬枇杷)

 

 

伊豆に住まうようになって初めて見た植物のひとつ、「イヌビワ」です。 

 

ビワというもののイチジクの仲間です。 親指大の実が生りますが、切ってみれば納得の小型イチジクです。

こちらはイチジクの実
こちらはイチジクの実

 

イヌビワは知れば知るほど面白い植物です。春から夏にかけて花も咲かずにいきなり枝に実が出現します。  

 

イチジクの仲間は「無花果」と書くように、まさに花がありません。 

これは見た目だけの話で、この実こそが花、「花嚢(かのう)」といいます。 私たちが通常目にしている花はガクがあって花弁があって、雌しべと雄しべがありますが、イチジクの仲間の花はこれらすべてがクルリと包みこまれてしまって、言ってみればリパーシブル、内側で咲いているというわけです。

 

そんなイヌビワが、風に頼らず通りすがりに訪れる虫もいないのにどうやって受粉をするかというと、イヌビワ専属の「イヌビワコバチ」が独占的に請け負っています。 

イヌビワは雌雄異株です。 雌株は花嚢の中に雌花のみを付けますが、雄株は花嚢の中に雄花と雌花を付けます。 

雄株でも雌花を持つことが面白いところです。

 

イヌビワコバチのメスはイヌビワのてっぺんの小さな穴から中に入り、種子植物の種となる「胚珠」に卵を産み付けますが、雌花嚢か雄花嚢か区別のつかないメスは雌花嚢の中にも入っていきます。 

 

イヌビワにとってみれば子孫を残す大切な胚珠に卵を産み付けられては困るので、雌花の中の胚珠は柱頭が長くなっていてメスの産卵管が届かないようにガッチリガードされています。 産卵管の届くのは雄花嚢の中の雌花の胚珠だけなのです。 うまくできていますね。 雄花嚢の雌花からは種子はできませんが、イヌビワコバチに産卵させるための見せかけに過ぎないということです。

 

 

 

さて、雄花の中に産み付けられた卵は秋には幼虫となり雄花嚢の中で越冬します。

翌年の夏にメスより少し早く羽化したオスは羽化間もないまだ動けないメスと交尾し、その後メスは外に出て行きます。 この時てっぺんの出口近くに雄花の出した花粉をつけて飛び去るという訳です。 雄株の花嚢に入ったメスは産卵しますが、雌株の花嚢に入ったメスは産卵はできずにジタバタ暴れて花粉を雌花に付けます。 

こうしてイヌビワの受粉完了です。

 

一方、オスは羽化と言っても翅を持たず、一生を雄花嚢の中で終えます。なんだかかわいそうな気もします。

 

イヌビワは雄花嚢をイヌビワコバチに専属で提供し、その代わりイヌビワコバチは雌花嚢の受粉を請け負うという一対一の切っても切れない共生関係が成り立っています。 

イチジク属はおよそ700種あるといわれ、それぞれに専属の共生パートナーがいるそうで実に驚きです。

 

染料の話はすっかりそっちのけとなりました。 

身近で豊富に採取できますし、タンニン分も多くもちろん染めにも使いますが、それよりも是非一度ジャムを作ってみたいものだと夢見ています。 

雄花嚢と雌花嚢はほとんど見分けがつきません。 雄花嚢は幼虫の虫えいですので食べることはできませんし、ちょっと遠慮したいですね。

越冬しているのは雄花嚢ですし、冬を迎える前に紫褐色に色づいているのが雌花嚢です。

これがジャムにできるのですが、いまだ叶っていません。

 


 

 6月の染料植物 

  ハリギリ(針桐)

 

大きな木だと20mは超えると思われるものを天城ではよく見かけます。 

新芽の時期の枝はその名のとおりトゲだらけで、タラの芽やコシアブラなどと同様にウコギ科で食べることもできます。 

いつもタラの芽と間違えますが、トゲはハリギリの方が鋭いでしょうか。 葉が展開してしまえば一目瞭然です。

ヤツデとよく似た葉をしていて、花もまたよく似ています。

 

染料として使われたという資料を見たことはありませんが、医食同源≒衣食同源。食べられるものは染料としても使います。 

あまり染まりませんが、、その成分は去痰作用があるとのことです。


 

 5月の染料植物 

ミズキ

 

その名のとおり新芽の時期に切ると水を吹くほどといいます。 

 

「ミズキ」と言うと大方の人が「ハナミズキ」を連想することと思います。 

ハナミズキは花の美しさから街路樹にしきりに用いられますが、同じミズキ科ミズキ属ながら随分と印象が違います。

 

 

 

 

 

伊豆の山地にはたくさん自生しており、ハナミズキに比べると一つ一つの花がとても小さく地味な集合花ですが、扇を放射状に広げたように枝を張り空に向かって真白な花が咲く姿は遠くからでもよく目につきますし、ことに夕暮れ時などその真白な花がポッ、ポッと浮かび上がる様子は何とも美しいのです。

 

 

よく似た「クマノミズキ」は開花期が少し遅く、同時に咲いたらとても見分けがつきません。 

わずかな差はミズキの葉が互生、クマノミズキは対生であること。 

遠目に見た樹形が整然としているのがミズキ、クマノミズキはやや雑然とした姿をしています。

 

 

いずれも私は染料としてはよく使います。 

どちらかと言えばクマノミズキの方が染め付きが良いようにも思います。

 


 

 4月の染料植物 

ローズマリー

 

私が東京に出てきた頃、小さなポット苗のローズマリーを買いました。 

かれこれ樹齢30年です。 

 

 

 

 

 

 

もともと雨の少ない地中海の乾燥地が原産地ですので、熱海に住まいを移してから、軒下の直接雨がかからないところに地植えしました。 

激しい雨や風の強い時に降り込む程度で、自慢にはなりませんが私がお水をあげたことはありません。 

そんな放任主義のわが家ながら、根元から株立ちし、根元の幹の直径は15cmほどあります。 かなり老木になりましたが、少し強めに切り戻しても春になるとすくすく瑞々しい新芽を出します。

 

 

ローズマリーは「若返りのハーブ」とか記憶力が良くなるとも言われます。 

通りがかりに服が触れただけで爽やかな香りが立ちます。 

 

幸い惜しみなく使えるほどの大株なので、ハーブティー、パスタ、魚料理、ベーコンの塩漬け、オイルやビネガー漬け、部屋にそのままつるしておくこともあります。 

 

お風呂のお湯を張る時に一枝入れるのも好きですし、来客の前に入口の階段にローズマリーの葉を撒いておくこともあります。 踏むと香りが立ち上ります。私の大好きな使い方です。

 

 

タンニン>分が含まれているので染料としても使います。 煮出しをしていると家中香りが立ちこめて、それはそれは気分もいいのですが、クロモジと同様油分が多いため、染めむらになりやすいのが難点です。

 

 


 

 3月の染料植物 

アカガシ(赤樫)

 

ブナ科コナラ属の常緑広葉樹で、コナラ属の中では珍しく葉に鋸歯がなく全縁です。 

温暖な伊豆半島の森では多く見かけます。 

 

わが家にも数本自生しています。樹齢700年とも言われる函南原生林の大アカガシの巨木は、すでに植物の域を脱し、精霊樹感さえあるほどの立派さです。

 

常緑樹の染めは3月が限度でしょうか。 常緑樹の葉は秋から冬にかけてが成熟の時で染色に適しており、春になると古い葉を大量に落とします。 

アカガシの落ち葉はツルツルしていて、山歩きをしていると厚く積もったアカガシの落ち葉の斜面が滑って登れないことがあります。

 


 

 2月の染料植物 

マンサク(満作)

 

早春に「先ず咲く」というのが、名の由来とも言います。 何とも変わった造形で、私は子供の頃のピロピロ笛を思い出します。 

昔は今とは違って紙風船と同じような紙で作られていたと思います。 

そのシワシワ加減がよく似ています。

 

 

マンサクは鮮やかな黄色の花が圧倒的に多いと思いますが、わが家のマンサクは珍しく咲いてみたら赤花でした。 

いずれも赤の色素を持っており、染めてみると赤味の茶色が染まります。 

黄花のマンサクでもあまり変わりはないと思います。

 

 

 

紅梅の梅の枝で染めると赤味が強いのかどうか試してみたことがありましたが、白梅とあまり違いはありませんでした。 

ただ、太い幹の心材を使うと幾分か違うようです。 

マンサクも同じでしょうか。

 


 

 1月の染料植物 

ヤツデ(八手)

 

知らない人はいないと思われるヤツデ。 

子供の頃にはどこの家の庭にも植わっていたような記憶があります。 

日陰でもよく育ち、大きな掌の形の葉は「福を招く」縁起の良い植物、あるいは天狗の団扇、「魔よけ」と聞かされてきました。

 

 

わが家の裏庭にも植えたわけでもないのに、あちこちから芽を出して割と早く大きくなるので、染料としてはよく染まるとは言えませんが、大きな葉は惜しみなく使えます。

 

 

いつも山歩きを共にする植物好きの友は、ある日のこと「ヤツデの葉っぱは何枚(何裂)か知ってる?」と聞きました。 

 

当然のように8枚と答えましたが、実ははぼ7枚、9枚という奇数裂だというのです。 

 

 

早速確かめたところなるほどでした。当たり前に思って疑わないことの盲点ですね。

 

 

 

花の少ないこの季節にウコギ科特有の放射状に広がる花を付けます。 

 

 

葉にはサポニンが含まれているので毒にも薬にもなります。 

かつて汲み取り便所の多かった時代には、近くに植えられて、蛆殺しに使われたと聞きます。 

 

また一方で、咳止め去痰のために乾燥した葉を煎じ薬として用いてきました。


 

 12月の染料植物 

ミツマタ(三椏)

 

冬の天城を歩いていると、スギやヒノキの人工林の林内に下向きに大きく蕾を膨らませたミツマタが点々と見られます。 

 

 

現在でも紙幣の原料として使われているそうですが、ほとんどが輸入のようです。

採算が合わず植えられたものが野生化したものでしょう。 

ミツマタと同様に古くから高級和紙の雁皮紙の原料として使われてきたガンピ(雁皮)も、ともに同じジンチョウゲ科というのが面白いところです。

 

20年ほど前でしょうか。 確か浄蓮の滝の近く、湯ヶ島だったと記憶していますが、友人と手漉き和紙の工房を訪ねたことがありました。 

原料となるミツマタもたくさん水に晒してありました。 

今、山歩きで湯ヶ島はよく訪れますが、いったいどこだったのか・・・・・ まったく思い出せないのが残念です。

 

染料としては若葉を使いますが、冬の枝も是非一度染めてみたいものです。

 


 

 11月の染料植物 

コナラ(小楢)

 

伊豆の里山にはコナラをよく見かけます。自然の植生かと思っていましたら、どうやら違うようです。 

 

 

 

 

 

昔からコナラは薪やシイタケの榾木として人の生活に深く結びつき、特に江戸と近い伊豆半島は一大薪供給地であったために、たくさん植えられてきたようです。

 

 

 

 

 

 

染料としても樹皮、枝葉、ドングリ、すべて使うことができ、身近にあるので染めたい時にいつでも手に入ります。

 

 

 

 

 

 

もう少し寒くなり12月の声を聞くようになると黄金色に色づき、それはそれは華やかで美しく、風の強い日に黄金の葉を一斉に空に舞い上げ、終盤を迎えます。 

 

もうすぐですね。

 

 

 

 

 

 

 

今朝のウオーキングの時にヤママユガの繭を見つけました。 

コナラが落葉すると一緒の落ちていることがあります。 

この季節ならではの枯葉の贈り物です。

 

 


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 10月の染料植物 

イタヤカエデ

 

天城を歩くと、イタヤカエデがたくさん自生していまが、わが家の近くで一本だけ自生しているイタヤカエデを見つけました。

 

 

 

カナダの「サトウカエデ」から採れるメープルシロップほどの糖度はないものの、イタヤカエデからもシロップが採れるそうです。 もちろん染料としても使えます。 

葉を乾燥して保存もでき、黒染めに使えますし、生葉で染めることもできます。

 

 

 

紅葉の美しいイロハモミジが庭木として植えられるのはわかりますが、、私なら断然イタヤカエデです。


 9月の染料植物 

ススキ(芒、薄)

 

ひと際暑く長い夏もようやく終わり、このところ涼しい日が続きすっかり秋らしくなりました。 

ススキの花穂も出始めました。

 

 

イネ科の植物で昔からよく使われてきたのは、カリヤス(刈安)とコブナグサ(小鮒草)です。 

カリヤスは伊吹刈安とも言われ、この辺りには生育しませんので染料店で乾燥したものを買うしかありません。 

コブナグサはわが家にもありますが、染めに使うほどの群落にはなってはいません。

 

 

一方で、ススキは至る所にふんだんにあって、ケチケチせずにたっぷり使うことができます。 あまりよく染まるとは言えませんが、秋らしい色合いです。 

 

身近に自生している植物を生活の中で自然に利用すればいいと思います。 

染めたいからとわざわざ遠方まで採りに行くようなことはすっかりなくなりました。 

齢のせいもありますか・・・・。


 

 8月の染料植物 

ムクゲ(木槿)

 

アオイ科フヨウ属、韓国の国花でもあります。 

チマチョゴリを思わせるふんわり美しい花です。 

 

同じ仲間のフヨウは花はそっくりですが、葉の形と樹形で見分けがつきます。 

ムクゲは真直ぐ伸び、フヨウは2~3mのこんもりとした株立ちの樹形になります。 

次々に絶えることなく咲いて、子供の頃の夏休みにはずっと咲いていたように記憶していますが、一日花です。 

 

写経用の紙をフヨウで染めたという古い記録があるものの、試してみたところムクゲもフヨウもあまりよく染まる染材ではありませんでした。


 

 7月の染料植物 

クチナシ(梔子)

 

子供の頃によく見かけた一重のクチナシを目にすることはめっきりなくなりました。 

大輪のまるでバラのような園芸種が増えました。

 

 

クチナシの香りは強く、その香りで咲き始めたことが分かります。 秋のキンモクセイと同じです。 香りは一重の方が強いように思います。

 

 

 

 

 

赤く熟した実を使い、古くから赤味の黄色を染める染料として使われてきました。 

衝羽根のような形をしていて、お料理の色付けにも使うのでご存知の方も多いと思います。 栗きんとんや、お新香の色付け、ご飯の色付けにも使われています。

 

 

 

おまけ

朝のウオーキングの時にカラスウリに花を見かけました。 夕方から咲き始めて朝にはつぼんでしまうので,なかなかお目にかかれません。 

 

夕闇の中にポッと白いレースを纏った花はとても幻想的です。


蓮着寺の大ヤマモモ
蓮着寺の大ヤマモモ

 

 6月の染料植物 

ヤマモモ(楊梅)

 

ヤマモモは古くから使われてきた染料で、染料名は渋木と言います。 庭木としてもよく植えられていますが、温暖な伊豆の照葉樹林帯には自生種の驚くほどの大木がたくさんあります。

 

染めには樹皮を使います。

 

 

染めもさることながら、ヤマモモの実もとても美味しいですね。 

ずいぶんと色づいてきました。


 

 5月の染料植物 

ムラサキシキブ

 

熱海に引っ越すまでは、庭木によく植えられ、こじんまりと株立ちしてたわわに紫色の実を付けるものをムラサキシキブと思っていました。 

 

実はこの庭木に使われているのは「コムラサキ」で園芸用に作られたもののようです。

 

 

 

 

 

 

熱海で本家・ムラサキシキブを見た時は少し驚きました。

3m~5mくらいのかなり大きな木になります。 

実はコムラサキのようにビッシリと付かず、少し大きめの実がまばらに付きます。 

葉を落としてからも冬枯れの森で紫の実が残っているのはよく見かけます。

 

 たくさん生えているのでやはり熱海に来てから初めて染めた植物です。 

 

染料としての堅牢度は判らない部分もありますが、私は「地産地消」ならぬ「地生地染」が一番ではないかと感じています。

 

得難い色に憧れて、その土地には育たない植物を入手して染めたとしても本来の色には染まりません。

 

 

 

以前、ウコンを育てて染めたことがありました。ウコンは南の方が自生地です。 

 

もちろん染まりはしますが、ウコンの育つ陽の光の下で染めて干さないと本来の色は出ないばかりか、褪色も激しいのを実感しました。

 

以来、その土地と陽の光の下で育った植物で染めることにしています。 

その方が自然ですし、簡単です。

 

 


 

 4月の染料植物 

カリン(花梨)

 

カリンの可愛らしい花が咲き始めました。 

 

春はバラ科の植物のオンパレードです。

カリンもバラ科特有の美しい赤味の色を染めることができます。 染めには剪定した枝葉を使いますが、落葉樹なので葉の成熟する夏の終わりから秋にかけてが一番かと思います。

 

ゴツゴツしたカチンカチンの黄色い実はご存知の方も多いことと思います。 

昔から咳止め、喉に効くと言われ、私も果実酒を常備しています。 

 

ジャムにするには固いので向かないかと思うと、さにあらず。 切るのに難儀をしますが、香りが高く染めた時と同じきれいな赤い美味しいジャムができます。

 


 

 3月の染料植物 

イタドリ(虎杖)

 

どうして「虎杖」と書くのか、ずっと不思議に思いながらも改めて調べることなく過ごしてきてしまいました。 

やっと真面目に調べてみたところ「痛みを取る」が転じて「イタドリ」となり「虎杖」は漢方薬の「虎杖根(こじょうこん)」からそのまま当て字として使われたようです。

 

染めにはその根を使いますが、なかなか美しい黄色が染まります。 

染料としても優良ですが、私は若いまだ赤味のある芽吹いたばかりのイタドリでジャムを作るのを楽しみとしています。 

タデ科の植物なのでシュウ酸を含み食べすぎ注意ですが、酸味があって野趣豊かなジャムになります。

 


 

 2月の染料植物 

フキ(蕗)

 

アクが強いので染まるだろうとは思っていましたが、想像以上によく染まります。

 

4月になってフキが出回る頃になると葉も大きくなります。 

葉も佃煮にして食べますが、毎度毎度は飽きてしまいますので、染めに使います。

 

今年は寒かったせいか、フキノトウも少し遅めの気がします。 

早春のフキノトウで染めてみたいとは思いはしますが、いまだ叶わず先に口に入ってしまいます。 この美味しさは格別です。


 

 1月の染料植物 

ヒイラギナンテン(柊南天)

 

ヒイラギののような葉にナンテンのような姿。 

似ているような似てないような。 

ナンテン同様メギ科の植物ですが、花はナンテンは梅雨時、ヒイラギナンテンはちょうど今頃蕾を付けています。 花の色は黄緑色で、ご存じない方も多いのですが、是非顔を近づけてみて下さい。早春にふさわしい爽やかな芳香です。

 

花自体はメギ(目木)とよく似ています。 メギは別名コトリトマラズ、ヘビノボラズというように、トゲトゲで鹿の食害の激しい天城の森で生き残っている植物の一つです。

 

ヒイラギナンテンは枝葉を煮出して使います。 

その花を思わせる青味がかった黄色を染めます。