草木染めについて今思うこと  

草木染めは植物の葉や根や枝や花や実などを煮出して染料をとり、その中に糸や布を浸して染め上げます。 

 

初めて染液の中に糸を浸し、引き揚げた時の感動は今でも忘れられません。それから何百回となく草木染をしてきましたが、その都度都度この「糸を浸して引き上げた瞬間」の感動は少しも変わることがありません。

 

さほどに植物のくれる色の美しさ、深さ、豊かさは例えようもありません。

 

草木染めの工程は、まずは染料を煮出して染液をとることから始まります。多い時では繰り返し8回まで煮出しを行います。それだけでほぼ一日を費やしますので、一日中ガスは焚きっぱなしです。

 

その後に染めに入りますが、1日目に一回目の染め、2日目には媒染と二回目の染め、3日目に3回目の染めをして1クールを終えます。 濃色にするためには日を置いてさらに2クール目を行う。というのが草木染の基本です。各工程では、媒染剤や余分な染料を落とすために流しっぱなしにして水洗いをします。

 

伊豆の豊かな自然の中に住まうようになってから、一段と強く感じ始めたことがあります。

 

この大量の燃料と水を使う草木染は、果たして環境にやさしいものなのでしょうか。

 

 

確かに、化学染料では得られない色調は得難いものですが、短時間でさっと染められる化学染料の方が環境負荷の面から言えばずっと優れているのではないか。多くの人が抱いている「草木染=自然=優しい」というイメージからは、実は程遠いものなのではないか。

 

媒染剤についても疑問を持ち始めました。古来より草木染は生活の中で行われてきましたが、媒染剤として使われたのは草木灰や泥、おはぐろ、梅酢、石灰などの自然由来のものでした。

 

一方で、現在では媒染剤はすでに化学薬品にとって代わってしまっています。 特に古来には使われなかった銅媒染は、特殊な色相に変えてくれるためによく使われるようになりましたが、洗い流せば銅も流れ出します。

 

銅媒染剤を排水溝に流すのがためらわれるようになった私は、ある時期からは銅媒染は止めてしまいました。

 

ここ10年くらいの間に気象状況が急激に苛烈になってきました。

 

世界中至る所で自然の破壊が進み、地球の温暖化もこのままでいけば危機的と分かっていながら、少しも改善しない状況。

 

使い捨ての物はあふれ、山奥にさえ廃棄物が散乱しているのを見かけるのは珍しいことではありません。声高にSDGsを叫んでみたところで、自分自身の生活を見渡せば、車に乗り、電気を湯水のように使う生活から一歩も抜け出せず、快適な生活に安穏としているのみです。

 

水生地
水生地

そんな中で、せめても自分自身のかかわることくらいには問題意識を向けて、少しでも良い方向に進んでいきたいと思うのです。

ましてや、長年にわたって愛着を持って携わってきた草木染のこと、これからの時代に即した新しいものに変わって行ってほしいと願っています。

 

今現在草木染に取り組んでいる人たち、またこれからという人たちにも是非こういう負の側面に目を向けて、現代の新しい草木染を模索してもらいたいと願っています。

 

          2023年2月