2021年8月4日(水)
富士山自然休養林
昨年より状況は格段に悪化していますが、富士山は開山し、駐車場も車でいっぱいです。
今日の富士山はきれいに見えています。
歩き始めたすぐ後ろから来られたご夫婦と挨拶を交わし、途中まで同じコースなので話をしながら歩き始めました。
キノコにものすごく詳しく、すっかりいろいろ教わりながらいくつか覚えました。
かねてよりどこかにキノコに詳しい人はいないかと思っていたところでした。植物は何度か見たり調べたりしてたいていは同定できるのですが、キノコはお手上げです。
聞けば日本のキノコは推定1万種以上、そのうち名前がついているのが2000に過ぎず、多くのキノコがいまだ正体不明なのだそうです。
私がチンプンカンプンでも当たり前と言えば当たり前、普通のことらしいのです。
それでも食べられるキノコと毒のあるキノコと見分けられたらどんなに楽しいだろうと思ってきました。 千載一遇のチャンスとはこのこと。
ヒロハチチタケ: 広葉乳茸だと思って、帰って調べたところ広刃であることが分かりました。
裏側の襞の隙間がチチタケより広いからなのだそうです。なるほどなるほど。
折ってみると白い乳液が出てきます。それでチチタケなのですね。
この季節になると草原でよく見かけるチダケサシは馴染み深い植物で、チダケを刺して持ち歩いたことからその名が付いたことは知っていましたが、ここで初めてそのチダケ=チチタケの実物が分かって思わず膝を打ちました。
カノシタ: 鹿の舌のように裏側に針のような突起物があってザラザラとしているからだそう。猫の舌ではないのです。
フランスではpied de mouton(羊の足)と言ってとても人気のあるキノコだそうです。 本当に豊富な知識に感心しきりです。
ヒロハチチタケもカノシタもちょっとばかりいただいて、教わったとおり料理していただきました。独特な歯ごたえ、なかなかで美味でした。
植物観察に来たはずの私はすっかりキノコに夢中で御殿庭下まで来てしまいました。
秋になったらキノコ採りにつれて行っていただくことを約束してお二人とはここで別れ、私は二ツ塚の方へと向かいます。
頂上はすでに雲の中、ほんの一瞬宝永山が見えて、夏のこの時期としてはまずまずの眺望です。
ミヤマフタバラン: 天城で見かけるアオフタバランとは色も唇弁の切れ方も少し違います。また、アオフタバランの葉は地面に張り付くようですが、ミヤマフタバランはスッと立ち上がっています。
地味な花ですが、よく見れば素敵です。 去年、花は見逃してしまいましたので、今年こそはとやって来た甲斐あり。
シモツケ: ここで見たのは初めてです。シモツケソウというのもあってよく似ていますが、葉が違います。
フジアザミ: 頭をもたげてきましたね。
もう少しで咲き始めます。
7月20日(火) 梅雨明け
ようやく梅雨明けしましたが、いきなり猛烈な暑さ。
ちょうどクサアジサイが咲く頃なので久しぶりの足慣らしに友人と植物観察にやってきました。
その名のとおり、草のような小さなアジサイで気をつけていないとうっかり見落としてしまいます。
葉が互生であること以外は他のアジサイと同様、両性花と装飾花を持っています。
小さいながら美しい花で私は毎年楽しみに見に来ています。
沢沿いの湿り気の多いところを好む植物たち。
地味ながらよくよく見れば精巧な造りの花たちです。
一転、日当たりの良い草原では夏の花たちも咲き始めています。
特に珍しい植物たちではありませんが、こうした草原は今ではほとんど姿を消しています。
定期的に草刈りがされて人の手が入るからこそ人の営みと共生してきたごく普通に見られた植物たちも滅多に見られなくなってきています。
草原の植物たちが絶えることのないようにと願っています。
マイサギソウ: だと思います。よく似たトンボソウは林間の湿ったところに生えますが、ここは南向きの陽当たり抜群の明るい草原。 生育場所も同定の大きな手掛かりです。
よく見れば長い距がS字に曲がって上に伸びています。
ヤマサギソウもよく似てはいますが、距は水平から下向き。 マイサギソウは初めて出会いました。
真夏の草原。幸いにもちょうど霧が出て日差しを遮り、涼しい風も吹き上げてきて快適でした。
切れ間から相模灘と初島。
下界はカンカン照りのようです。
7月12日(月) 八丁池
雨の降り止まぬ日々が続きましたが、久しぶりに曇りがちながら雨マークのない一日。
八丁池まで歩いてみました。
2週間ほど歩けなかったのと、アマギツツジの様子が見たくて一番遠回りのルートを選んだのと、もの凄く暑かったのと、3つが重なってかなりバテ気味でやっとのことたどり着いた感じでした。 運動不足は堪えます。
女王様のような大ヒメシャラは落花の絨毯の上でどっしりと毅然とした変わらぬ姿。
ヒメシャラの花は高い木の上で上向きに咲くので落花で咲いたことを知る花です。
アマギツツジもすでに時期は遅く、八丁池近くまで来てようやく花を付けている木に出会いました。一番遅く咲くツツジで6月下旬から咲き始めますが、ちょうどこの頃は梅雨時と重なってなかなか盛りの時にめぐり逢えません。
その名のとおり天城に多い伊豆の固有種です。
空と緑を映す水面がとても美しい八丁池。すっかり夏景色になっています。
ギンリョウソウ: 今年初めて見かけました。
そんな季節になりましたか。
マツカゼソウ: どこでも見かけますが、新芽が吹く頃の緑のグラデーションは花が咲いたようにきれいです。
定点観察中のジンバイソウとアオフタバランは花柄をグンと伸ばしています。
来月には花が見られるでしょうか。
6月に出会ったキヨスミウツボのその後がどうなったかと思い見てみたところ、なんと実になっています。なんだかニンニクのようです。
これは感激。
花も滅多に出会えませんが、実はさらに難しいと思います。
来年も同じところで咲いてくれるかどうか。楽しみになってきました。
6月21日(月)
富士山自然休養林
遠くからは富士山の山頂が見えていましたが、ちょうど私の登っている辺りは雲の中。今日は残念ながら宝永火口も山頂も見えません。
これはこれでまた佳し。
二ツ塚下塚まで登ってのんびりおにぎりを頬張りながら刻々と姿を変える雲と靄の景色を楽しんでいたところ、ふと稜線のブル道を山頂に登って行く2台のブルドーザーが見えました。
昨年は入山禁止でしたが、今年は富士山も開山するらしいので、山頂に荷揚げするのでしょうか。
日本人なら一度は富士山に登りたいと思うもの。とはよく聞くセリフですが、私はまず登ることはないと思います。
テレビなどで見ると渋谷かと思うほどの人の多さ、友人に聞けば登山道は渋滞するとのこと。 これを見たり聞いたりするだけでげんなりしてしまうので、私は100%登らないと思います。
しかし、しかし。 万一あのブルドーザーに乗って行けるならば行ってみたい。さらに願わくば自分でブルを運転して行けたら最高でしょうが、こちらも100%ありそうもない話です。
今日のお目当てはイチヨウラン。二株しか見つけられませんでしたが、再会できました。
カラマツの木の下、薄暗いところにひっそりと凛とした姿。
ツルシロカネソウ、シロバナノヘビイチゴ、マイヅルソウなど先回の主役たちは終盤を迎えていましたが、初顔・ツマトリソウに出会いました。 砂礫地の入るとオンタデが咲き始めています。厳しい環境の中に生きる植物は短い夏を惜しむように一気に成長して一気に花を咲かせます。
マタタビの花が咲き葉の先が白くなっていました。
虫を惹き寄せるために花の咲く頃に葉先がこのように目立つようになり、この時ばかりはあそこのマタタビがあると人間でも気づきます。
この白い色、実は白い色素のために白く見えるのではないそうです。葉の層にわずかに空気層ができるためで、波頭が白く見えるのと同じ理由だそうです。 なるほど。
葉緑素を失くしては光合成ができません。植物の戦略は素晴らしい。
6月10日(木)
江之浦測候所
杉本博司氏が長い構想を経て作り上げたと聞いていた江之浦測候所。
かねてより一度訪ねたいと思っていました。
説明ができません。 興味を持たれたならばまずはご覧になるのが一番でしょう。
夏至光遥拝100mギャラリーと冬至光遥拝隧道を基軸とし、さらに春分秋分の日の出の道上に石舞台が作られ、その日の出の方向をたどるとちょうど冬至光遥拝隧道の先端と光学硝子舞台上で交差するようになっています。
この3本の基軸の先端がそれぞれ夏至、冬至、春分、秋分の日の出の位置と重なるように設計されています。
私はただ「大きいなあ、すごいなあ」としか思わなかった能天気な20代でしたが、ここに来てエジプトのアブ・シンベル宮殿を思い出しました。
正面入り口には4体のラムセス2世の座像があり、入口から奥に神々の像があります。
奥までは60mあるようです。
春分と秋分の朝だけ入口から入った朝日はこの奥の神々を照らすのだと聞きました。
古代の人々が申し合わせたわけでもないのに世界中にこのような例がたくさんあるようです。 夏至の日にその正面に太陽が沈むというメキシコのテオティワカンのピラミッド。
春分と秋分の日だけ太陽の光と影によってマヤ人が信仰していたとされる蛇の神様のククルカンの姿が浮かび上がるチチェン・イッツアのピラミッド。
古来、夏至、冬至、春分、秋分は特別の意味を持った日でした。
人間の根源や原初の姿、天空の理と神々。
人それぞれに感じ取るところは違うでしょうが、今のような時代だからこそ、今一度立ち返るところを考えさせてくれるものでした。
もう一度じっくり見に訪れたいと思います。
6月2日(水) 八丁池
花の写真を撮ろうと一歩踏み出したその足元、ハッとして思わず足を引っ込めました。
久しぶりのキヨスミウツボです。
初めて出会ったのは青木ヶ原樹海でした。かなり大きな群落で筒状の花がいくつか束のようになっています。まだ開花前の状態で先端が開くと唇形の花になります。ここで出会えるとは思いませんでした。幸運です。
アジサイ類やカシ類の根に寄生するようですが、見渡したところカシ類はなくアジサイと言ってもわずかにツルアジサイが見られるだけ。最もまだ確かなことは分かっておらず、他の植物の根にも寄生するようです。 光合成をして自ら栄養分を作ることを止めてしまったため葉緑素を持たず白いものが多いです。
ところで長らく不思議に思ってきたことに、「キヨスミ」という名を冠する植物が結構あることです。
キヨスミウツボ、キヨスミヒメワラビ、キヨスミギボウシ等々。人の名前かと思ったりもしましたが、千葉県の清澄山に由来するようです。 ここは東京大学の千葉演習林で、多くの新種がここで発見され名付けられたとのことです。 一度是非訪れてみたいものです。
森の中はが少しずつ濃くなってきて、カッコウの鳴き声、ケラの木を叩く音。アオバトの声もします。
少し雲行きが怪しくなってきたので、早めに下りてきました。
定点観察中のアオフタバラン。
無事成長中。
ヤシャビシャクは今年花を見逃してしまいました。すでに実になり始めています。
倒木は植物のゆりかご。
鹿の口の届かないこんなところに数えきれないほど様々な植物が育っています。
5月24日(月)
富士山自然休養林
今日は一日中、空気の澄んできた秋でさえ滅多に出会えないような視界の素晴らしい日でした。
御殿庭まで登ってくると宝永山のせり出した火口縁、二ツ塚に下るにつれてその奥の雪の残る山頂が見えてきます。
すぐにも登って行けそうなほど山肌まで木目細かく手に取るように見えています。
伊豆の西海岸、一番奥に見えるのは雲見の烏帽子山。
駿河湾をはさんで対岸にはうっすらと御前崎。
手前の緑の濃い山塊は愛鷹の山々。その奥には大室山、矢筈山、遠笠山、万二郎岳、万三郎岳、三蓋山、達磨山。ずらりと天城の山々が見えています。
箱根に目をやれば山肌がむき出しのところは噴煙を上げる大涌谷。伊豆大島も見えます。
山中湖と御坂の山々。
今日は二ツ塚下塚に登ってみました。
ここから見る三段重ねの二ツ塚上塚、宝永山、富士山頂はなかなかの圧巻です。
名残惜しくて、何度も何度も振り返り、振り返り、また振り返りながら四辻から下山してきました。
今日の再会組の花たち。
ヤマシャクヤク: 今日の目的の一つはこの花に再会すること。
朝ラジオを聞いていたらちょうど「今日の花はシャクヤクです。」と言っていました。
凛として清楚ながら豪華な花です。
ここまでは樹林帯の花たち。
倒木帯に入ってくると歩道脇の花はツルシロカネソウからシロバナノヘビイチゴに変わってきます。
下界で見かけるのは黄色いヘビイチゴですが、富士の周辺では圧倒的に白花です。
森林限界、砂礫地に入ると
フジハタザオ
ネバリノギラン:花は7月頃でしょうか。また見に来たいと思います。
今日の初お目見えタケシマラン: アマドコロやナルコユリによく似ていて、葉は何度か見かけていましたが、まさか葉の下に随分と地味ながら随分と変わった花を付けているのに初めて気づきました。
ランとは言うものの亜高山帯に見られるユリの仲間です。 かなり数が少なくなっている希少種のようです。 この地味な花から想定外の真っ赤な実が付くようなので、その時期にもまた見に来るとしましょう。
5月10日(月) 天城新緑
鳥の声と梢を渡る風と自分の足音だけを聞きながら森を歩けば言うことはなし。
どの季節も甲乙つけ難いけれども、新緑のこの時期の緑は明るくて、嫋やかで、生気に溢れていて眩いばかりです。
トウゴクミツバツツジが咲き始めています。少し時期的には早いのでミツバツツジかと思いましたが、きちんと確認。
トウゴクミツバツツジには雄しべが10本です。
よく似たミツバツツジは5本です。
ウンゼンツツジ:数年前に初めて出会いました。ちょうどその時と同じ頃なので、咲いているといいなあ...と思いながら来ました。
初めて出会う花にはいつも感動しますが、こうして再会できるのもまた一段と嬉しいものです。
初めて見た時はあまりに小さくてツツジだとは思えませんでしたが、近づけば小さいけれどしっかりツツジです。
ちょうど桜の花ほどの大きさ、葉に至っては1㎝あるかないか。
ウンゼンツツジとは言うものの雲仙には生育していないそうです。ハコネウツギが箱根に生育していないのと同じですね。 四国南部、大隅半島、本州では紀伊半島、伊豆半島が生育域とのことですが、このように飛び地になっている訳を考えると想像がふくらみます。
ジンバイソウ: 定点観察中。
今年も無事同じところで芽吹きを確認。
アオ>フタバラン: こちらも定点観察中。
3か所とも無事芽吹きを確認。すでに花柄がのぞいています。
コミヤマスミレ: スミレも少し同定できるようになってきました。
葉の主脈付近と葉裏が紫色を帯びることと、一番の特徴は萼が反り返ること。
フモトスミレやヒメミヤマスミレと区別できます。
タンナサワフタギ: 葉の形、鋸歯の向き。タンナサワフタギではないかと。
実が付けば明らかですが、タンナサワフタギとサワフタギは見分けの難しいものの一つ。
アリがセッセとアセビの落花を運んでいます。
何をするのでしょう。蜜が甘いのでしょうか。
花ごと運ぶのには理由があるのでしょうか。
森が息づいてきました。